「義理ホワイトディ」2.

何時もの通い慣れた道を走って、見慣れた部室へと辿り付いた
螢一は、KSRのエンジンを切って、部室に向かった。
「お〜す」ドアを開け声を掛ける。返事は無い。
「あれぇ・・・誰も居ないのか・・・長谷川は?」
部室を見渡しても、散乱した部品達があるだけだ。その中、ひとつの
山が動き出した。
「・・・ん!」螢一は警戒した。
「森里・・・か?」聞き慣れた声がした。大滝先輩の声だ。
「ええ、俺です」
螢一がそう声を掛けると、ひとつの山が大きく動き出した。
「も〜り〜さ〜と〜!俺を助けてくれぇー!」
サングラスをかけているが、その目からは大滝・・・滝のような涙が
流れている。
詳しい事はワールウインドにでも帰ってから聞くとして、とにかく
部室から出て行こうとした、その時である。


ドドドドドドドー!!


「すわっ!地震かっ!」と思いきや、この振動は以前も体験した事が
ある気がした。
「ああああ・・・ヤツが来るっ きっと来るー」
何だかホラー映画のセリフのような事を言っている大滝だった。
部室の窓から外を見た。あの姿・・・まさに異形の邪神のようだ。
「大滝先輩!ダッシュですっ!今すぐここを離れましょう!」
怯えている大男の背中をつかんで、螢一は外へと向かった。
バイクのエンジンをかけ「先輩早く!」と後ろに乗せた。


「うおおおおー!!」
大滝の姿を発見した田宮は、その後を追い掛けて来る。
「待てぇー!!大滝を返せー!もりさとー!!」
待てと言われて、待てる訳がない。螢一はギアを入れスロットルを
全開にした。


全開にしたのだが・・・KSRはたかだか80ccのバイクだ。
それに後ろに大男を乗せていてはスピードなんか出やしない。
もはや一巻の終わりか、と思いきや、どうしてだか田宮は、自分の
バイク、それも原付のモトラを取り出して、追い掛けてこようと
していた。
時速30キロのバトルの始まりであった。


何時もの通りへと躍り出た二台のバイクは、割と静かな排気音を立て
疾走していた。
ただし・・・怒号だけは遠くまで木霊していた。
「うおおおー!待てー!」
「いやだーいやだー!」
「・・・もう、何がなんだか・・・」
無論、途中の信号等はキッチリと守る。しかし不思議に追い付かない
のは何故だろうと螢一は思った。
それにしても、どうして田宮先輩は、あんな格好をしているんだろう
とバックミラーを見ながら更に思った螢一だった。


途中「わぁ〜見て見て、ヘンタイだよー!」とか
「お母さんー!怪獣さんだよー!」とか
「見ちゃダメですっ」とか、街中の人々の歓声があがる。


一行は、ワールウインドを目指してスピードを増して行った。


もっとも、法定速度はきっちりと守っていた。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


ミニバイクのバトル・・・面白そうだなー。
しかし終わらねぇなぁ・・・。