森里家の日常9

季節の変わり目に降る雨はいつだって
豊穣を約束してくれているかのようだ。
何時も翼を休めるこの場所も、雨音に
静かに佇んでいた。
広い境内の傍らに平屋の母屋があって
そこには縁側で語らう人々の声があり
騒々しい時も柔らかな時も主たちは
とても楽しそうに暮らしている。


雨音だけが支配している庭の小枝に
そっと足を休めて縁側の方を見る。
今日は静かだ。


あの麗しくもお酒が好きな銀髪の方も
どこかに夢見るような可憐な黒髪も
清らなかな亜麻色の髪の乙女
その姿を見せてはくれない。


時折、家の中から物音がするが、それが
何かは分からないけど。
それはきっとあの方達の音だと思う。


わたしはここにいるよ
あなたはどこにいるの


こえがきこえる
きこえそうなきがする
いつかのときのなかで
いつもきいていたこえ


あなたはここにいるよ
わたしはどこにいるの


雨音に風がまじってあの山の
彼方へと昇っていく。
そろそろ雨も止みそうだ。
またここに翼を休めにくるから、
その時は一緒に歌をうたって。


by belldan Goddess LIfe.


*** *** ***


わーバイクにカバーしとかなきゃ!と螢一は
慌てて裏のバイク置き場に向かうのだった。

あなた
いつもこころの
うちがわに
えがおかくして
おもいこがして

かなたへ
きりがないわと
くちはさむ
けれど
こころはいつも

さみしさに
しみこむあいが
すこしでもあれば
せかいは
それでも

たいようはのぼり
ちへいせんにしずみ
つきはかがやき
てんへとのぼるような
ときめきと

なもしらない
にしへとかえるたび
ぬきさしならぬ
ねんりんを経て
のにはなつのは

はれ
ひる
ふるあめ
へんりん
ほんとうのことは

まごころに
みしらぬあなたと
むかしであいて
めかくしされた
ものがたりを

やっと手にした
(いま)
ゆるやかなさかのとちゅう
(えんありて)
よるをまつあいだに

らいめい
りはん
るす
れんあい
ろんり

わたしはここにいる
「ん」

by belldan Goddess Life.

森里家の日常8

  [この世界には、神様と悪魔とかわいい女の子しか
居なかった…。]


「はぅ〜」
だとすると、かわいい女の子ってあたしの事だよね。
スクルドは愛読書の『どぼん』を閉じ溜息をつく。
あ、でもでも、あたしってば神属だから神様の部類だ。
だとすると、仙太郎君は…悪魔?魔属?それはちょっと
有り得ないわ。


そうしたら、残りは…女の子?いやいや、男の娘?
えー!


「はぅ〜」


自室をゴロゴロと横になって、ああでもないこうでもない
と思考は拡散するばかりである。


[神様は云った『私の言葉を聞け』悪魔も云う『ならば、
私の言葉も聞け』そして女の子も『だったら私の…』]



えーと、何ていうかなーウルドっぽい性格の登場人物
ばかりなんだよねー。人の話は聞かないし。



[ある日、女の子は野に咲く花を見た。微風に揺られて
可憐な花弁をゆらすその様に優しさを感じて。
『私…優しくなりたい!』と、そう強く思うのだった]



やっぱりコレ!まさにあたし!まさしくあたしが女の子
のポジションじゃないの!


[神様は云う『私の話を聞け』悪魔も云う『ならば私の話
も聞け』そして女の子は『大丈夫、皆の話を聞きましょう』
そう確かに告げた。穏やかな瞳で]


ああんもう!まさにまさにあたし!あたしの真実の姿が
ここにあるのよ!


さらに思考が加速する!もちろん幸せも加速する!


そんな訳で。


「ウルド!」
ノックもせずにウルドの部屋に殴り込みをかけるような
そんな感じでスクルド
「ちょっと聞いてほしい事があるの!」


大好きな銘酒『男坂』に舌鼓を打っていたウルドは、
また藪から棒ね〜と溜息を付くが、そこは姉の貫禄で
「どうしたの?お腹でも痛いの?」と曖昧な返答を
返すと
「違うわよー!重大発表なのよー!」とスクルド
「へぇ、そうなの」
「そうなのー!」
「で?」
「ちゃんと聞いてね」
「はいはい」


「あたし、神属辞めて普通の女の子になります!」
「了承」
「え?早くない?」
「了承」
「あ、あれ?」
「了承したから帰っていいわよ」
「あ、うん…」


頭の上にハテナマークをたくさん付けてスクルドは部屋を
出て行った。


「ふぅ」
アレよね、何か雑誌とかTVで見たアイドルの卒業イベント
なんかに影響されたみたいね。
まぁ、何にせよ、忙しいと言うか騒がしい我が妹よね。



そんな森里家の日常。


つづく。


by belldan Goddess LIfe.


*** *** ***


楽しそうで何よりだ。

森里家の日常7

「ありゃ…」


随分長い間放ったらかしにしておいてたギターの弦が
良い塩梅にウエザリングされていた。
つまり…錆びているって事だけど、でも俺には秘策が
あるんだ。
そんな訳で台所へと向かっている。


まずは鍋に水を入れて、コンロにのせて火をつける。
ほどよく沸騰した所で、ギターから取り外した減を
手際よく丸めて鍋の中へと。
沸々と気泡を立て湯気を上へと遊ばせていると、何だか
料理をしている気分になる。
そう言えば彼女が来てから俺って何も料理してないよな。


そうは言っても大学の男子寮時代も、店屋物とかで
済ます事が多かったし、金欠な時はもちろんカップ麺が
あるじゃないか、と言った食生活だった。


そう考えれば、今の生活って最高に幸福なんだよなぁ。


「なにニヤニヤしているのよ、気持ち悪い」
「あーなんだ、ウルドかー」
「何しているの?」
「何していると思う?」
「…まさか、自殺?」
「それを言うなら、自炊とか、だろ!」
「そうとも言うわね」


ウルドはコトコト音を立てている鍋が気になったのか
覗き込んで、かわいそうな人を見る目で俺を見た。


「な、なんだよ」
「アンタ…いくらなんだってこんなものを」
「べ、別にいいだろ!」
「これは大問題よねっ!ちょっとベルダンディー
知っているのかしら!」
ベルダンディーは関係ないだろ!」


ベルダンディーベルダンディー!」
ウルドは大声でしかも法術を行使して彼女を呼んだ。
呼んだと言うより、叫んだ、と言うべきか。


「姉さん、どうかしました?」
まるで風のように台所へと現れたベルダンディー
不思議そうにウルドを螢一を交互に見る。
「アンタ、ちゃんと螢一にご飯食べさせているの?」
「ええ、今朝もちゃんと…三杯も」
通常の三倍も!?」
「ええ、それはもう『おいしいおいしい』って言って
くださって!」
「そう、なの?」
だったらこれを見なさいよ、とウルドはベルダンディー
に鍋を見れば、と言った。


「まぁ!これは…」
「でしょ?」
「新種の麺かしら?」


その始終をどう説明しようかと傍観していた螢一だったが
いつもどおりの斜め上への展開に安堵と不安が限界点に
達したので、事の次第を二人へ説明する。
もちろん、この作業も日常茶飯事なのは言うまでもない。


「ギターの弦、ですか」
「そうだよ」
「それなら最初に言ってくれないと!」
ウルドはつまらなそうに言う。
「面白くなってきそうだったのに」
何が?と聞きたい所だが、聞かない事にするのが森里家の
慣わしだ。


錆びた弦を煮沸すると、一回だけだが弦が蘇るのである。
その事を説明すると
「わぁ〜すごいですねっ」とベルダンディー
「何度でも蘇らせる方法とかないの?」とウルド


ふたりの女神さまっの意見は様々だが、これが森里家の
日常なのである。


おわり。



「後でギター、聞かせてくださいねっ」
「もちろんだよ、ベルダンディー
とは言ったものの、最近奏でてないので不安であるが。



つづく。


by belldan Goddess Life.

*** *** ***


こんな感じで、こんな感じかな?

森里家の日常6

日常シリーズ(って言ってもアレですが)の続きの
フォルダーがない!保存したと思っていたのにー。



「あれ?ない…マジでないー!」
いやこれはきっと孔明の罠、いやいやあり得なくも
あり得るかも、ありえる…アリエル?なんだそりゃ。


あの先輩達が「お祝いだ」と言ってくれたのは
歴戦の兵、戦艦長門のプラモだ。
そんな訳で時間をみつけては少しずつ製作を行っていた
のだが、肝心のソレが見当たらない。
部品とかではなく、本体そのもの、て言うか箱ごと無く
まるでそれだけが時間を遡行したかのような体をして
自室に消失感をかもし出している。


あ、消臭じゃないぞ、多分。


「螢一さんっ」
部屋の外から声がかけられる。その主は女神さまっだ。
女神さまっの中の女神さまっ、世界の、いや宇宙の
女神さまっだと言っても過言ではない。
そのお方がコロコロとした可愛い声で俺の名を呼ぶのは
まるで天国のようだ。天国じゃないけど。
「うん」
「入りますね」
そう言って彼女は部屋に入ってくる。手には二人分の
お茶とお茶請けを持って。
「はい、紅茶」
「うん、ありがとう」
「あら?どうしたんですか?」
「うん、それがね…」
事の顛末を話したのだが、それを聞いて思う所がある
女神さまっは人差し指を顎に当て、明後日の方角を
見詰めながら「そうだわっ」と声を上げた。


「そう言えばスクルドが庭の池にお船を…」
「え?え?…お船を…浮かべてた、の?」
「ええ、浮かべてた、と言いますか、その…」
「ええと…動かしてた、とか?」
「そうです、そんな感じです」


まさかスクルドが俺の長門(戦艦の事だ)を拉致って
良いように言い包めて(内緒で製作して)あまつさえ
女神のはしくれでエンジニアでもあるヤツの事だ、
何か妙な細工をしてあり得ない物になっている、とか


「…ありえる」
「どうしたのですか?螢一さん?」


いやいやいや…最愛の彼女の妹にあたる彼女だ。
ここは義兄らしく大人な対応が求められるはずだ。


お船か〜スクルドらしく可愛いゴンドラとか?」
「そうだと良いのですが…何でも『決戦だー』とか」
「えー『決戦だー』なの?」
「らしいです」


可愛い王女が乗るようなゴンドラとかスワンとか、
そんな物を想像しようと試みた俺はバカなのシヌの?


「ははは…何だかスクルドらしいや」
「ええ…でも私はもっと可愛いのが…」
え?可愛くない?だとすると、その船はまさかの戦艦?


いやいやいや…俺の長門(戦艦長門)は愛いヤツだぞ。
あ、もちろんベルダンディーには敵わないケドね。


そんなニヤニヤ動画な森里家の日常。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


書き直そうとしたら、まったく別の話になる!不思議!

眠れぬ夜に見る夢は

眠れぬ夜に見る夢は。


浅き眠り、深き眠り、波のようにおしてはひいて
風にのったおんがくは、こころのとびらひらいて
ねむれぬよるにみるゆめはこうしておとづれる。


とおくでくるまのおととノイズと遠吠えとが
ふしぎにとけだしてとおくちかくに木霊する。


「ねむい」
「ねむれん」
「ねむい」
「ねむれん」


そのくりかえしもいずれはこどうとなって
とけてながれて日々の中へ。


こころのドアはどこにあるの
その鍵はだれがもっているの
こたえるひともなく、その問いはむなしくきえて


それでもあさがいつものようにかおをだして
あいさつするんだ。


きみのこえがきこえたような そんなきがした。


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


今月はアフタの新連載がとても楽しみで!
ふろくとか!ふろくもとか!

森里家の日常5

俺達の戦いは始まったばかりだ…。


そう、この階段を一つ一つ登り続けて行く。
そう決めたんだ。決めたんだってば!
人生はまるで螺旋階段のようだと誰かが言っていた。
上がっているのか下がっているのか、現時点では
判らない。でも一歩一歩踏みしめる階段は確実に
俺達を昇華しているはず、だ。


なのに…


一難去ってまた一難…まこと波乱万丈な人生よのう。
そんな事を、まるでメリーゴーランドのような、
あ、もしかしたらジェットコースターのようか?
どうでもいい。どうでもよくないか?


「螢一さんっ、皆が祝福してくださいますねっ」
「あ、うん…」
何ていう生返事だ。
と言うか、やっぱり、と言うか、あのね、そのね、
俺達のこれからの人生の門出に、何て言うか、


アレじゃね?


「万事休す?とか?」
「そうそう、そんな感じ…って、うわー!」
「何が『うわー』なのよ、失礼ね」
「…ウルド」
「どうやらマジでお困りのようねっ」



しかし、とにかくだ。周りを見ろ。こんなに女神さまっ
がたくさんいるんだ。ある人にとってはこんなに羨ましい
事は無い筈だ。うん、何事も前向きに考えるが吉だ。


でも、何でこんなに四面楚歌な気がしてならないんだ?


前方にどこからかテーブルと椅子を出してお茶している
薔薇の女神さまっと、待機状態を維持している女神さまっ
がいて、左右にトラブルメーカーと、マッチポンプ
仁王立ちしている状況下だった。


あ、後方に隙がある!
ここは戦略的撤退、いわゆるプランBを開始するのが
最善策だと判断した螢一は
「ベ、ベルダンディー…ちょっと買い物に行こうか?」
と咄嗟ながら、我ながら会心の転機を思いついた事に
安堵を得た。
「買い物…ですか?それって、デートとか?」
ベルダンディーは不思議そうに尋ねてくる。
「そ、そう!デートだよデート!」
「まぁ!」
「善は急げって言うし、ね」


そういう事でダッシュして裏にまわり、サイドカー
起動させ、その場を後にする若夫婦だった。



つづく


by belldan Goddess Life.


*** *** ***


一騎当千の女神さまっ達から逃れられると思っている
ゆかいな若夫婦の明日はどっちだ!

そんな感じのかれらの日常でしたー。