出会いの時/予感と共に

 出会い…それは終末からの旅立ち。


オレはきっと、出会う前から恋をしてたんだ。


彼は立ち向かう。それは怒涛の波間に見える
約束の地を求めて、旅立った船の動揺のように。
それは、ごくありふれたシチュエーションで
まるで漫画か何かのような、そんな演出みたいで
曲がり角、すれ違いざまにぶつかってしまった女の子。
先に「ごめん」と言えずに、驚いて、ただ見蕩れて
呆れ返る女の子の「ごめんなさい」だけが耳に届いた時
オレの心の琴線が、キュンと弾かれたんだ。


「ああ、ごめんよ…」と言って見たものの
その声はすでに、彼女の耳には届かない距離を保って
空しくフエードアウトした。
後姿を見送るオレは、ぶつかった姿勢のままで
そう、尻餅を付いた格好のままで、まるでアホのように
ただ見続けていたんだ。


小学校へ上がる、春休みの事。


もしかしたら彼女も同じ学校だと良いな、とか
それよりも、どこに住んでいるんだろうとか、考えては
どこにも解決法を見出せない自分が情けなかった。
もし、あの時にオレが機転を利かせて、GPSの端末を
彼女の服かどこかに貼り付けて、そしたら探索も容易に
なるだろうとか、考え見ても、やっとこさ幼稚園を卒園する
オレに、何ができるだろう?
「はやくオトナになりてぇ〜な」とぼやいて見ても
時間は空しく平等に、そして正確に時を刻み、引き伸ばす事も
短縮する事も出来なかった。


そんな、ちょっと子供ぽくないオレ。


時々、記憶の片隅に、それはまるで夢で見た風景のように
しかも鮮明に眼前現れる事がある。
曲がり角でぶつかった女の子の事、彼女の事もそうなんだ。
名前も知らぬ彼女、それでも夢の中ではオレに微笑んで
その優しい顔を、そっと・・・


唇が動く、何かを言っているんだ。
言葉が聞こえない。もしかしたら、日本語じゃないのか?
オレは耳に手のひらを当てて、音に集中した。


でも、聞こえるのは風の鳴く音だけだった。


「はぁ〜」
ぼんやりと思考の海に浮遊していたのを、止めたのは友人だった。
「おーい、小野寺〜!遊びに行こうぜ!」
春に見る夢は、何て言うのだろう?
現に表れる日を夢見て、オレ達は、また終末から旅立つんだ。



出会いの時/予感と共に



by belldan Goddess Life.