ハロウィンの日
題して『ベルと千尋の紙芝居』って感じなの。
とある10月の晴れた日に、俺とベルダンディーは、いつもの
ようにワールウインドへ出勤した訳なのだが、何やら店先が
オレンジ色に染まっている。
「わぁ〜可愛いですねっ 螢一さんっ」
目を丸くして微笑む女神さまっは、オレンジ色の主を手にして
すごく楽しそうであった。
オレンジ色の主=かぼちゃ。
俺は「ああ、ハロウィンなんだったっけ」と思い出して
千尋さんの相変わらずの懲りように不安も隠せないでいた。
「おはよーございますっ」
俺たちは店に入る。 すると…
「はーい!トリック ア トリック!」 と千尋さんの声。
まて!ちょっと、待て…今、千尋さんは何て言った?!
それに千尋さん…何だか怪しげな衣装を纏っているぞ。
これは…ま、魔女か?! 魔女っ娘なのか?!
しかも、トリックばかりで、トリートが無いぞ?
お持て成しは無しって方向なのか?!
いやいや、俺たちは店の従業員なのだし、お持て成しは
お客さんにすべき…そう言う事なんだ、と思う。
そんな訳で、俺たちも千尋さんの指導の下、ハロウィンの
コスプレを身を纏い、店頭に立つ事となった。
俺はかぼちゃのマスクを被り、白い布を纏ってオバケとなり
ベルダンディーは、やんちゃな妖精さんって寸法だ。
透き通った布と針金で作られた羽を背負い、頭部には小さな
ティアラを乗せて、それはもう上機嫌のベルダンディーだ。
「わぁ!可愛いですねー」
さて、今日のワールウインドは、老獪な魔女と、かぼちゃの
オバケと、そして、やんちゃな妖精さんで切り盛りされる。
そして、レジのあるカウンターには、ちゃんとお菓子も
用意されている。
準備はOK。 後はお客さんを待つばかりだ。
「こんにちはー」
今日のお客さん、第一号の来店だ。
「トリック ア トリート!!」
皆、一斉に声を揃えて言った。
「え? ええぇー!!!うわー!!!!」
その叫び声は、多分近所にも聞こえただろう。
言うまでもないが、第二号も三号も、奇声をあげて
店から退散していった。
「あっれぇ…おかしいなぁ…ぜったい面白いと思ったのに」
魔女の変装をしている千尋さんは、首をかしげる。
「そうですね…皆さん、気に入らないのかしら…」
ちょっと不安げな面持ちのベルダンディーは溜息を付く。
「あのぅ…」 俺は恐る恐る千尋さんに意見をして見る。
「ん? って、うわー!! あ、森里くんかぁ…」
待て!今更何で俺の変装を驚くんだ?
「あっ!もしかして…森里くんの変装が怖かったのかなぁ」
ちょっと待て!その理由は変だと思わないのか?
「いいえ、螢一さんっは怖くないです。むしろ可愛いかと」
ベルダンディーは、かぼちゃオバケの俺を優しく見詰める。
「千尋さんっ!ちょっといいですか?」
俺はかぼちゃを被ったままで真剣な話をしようとした。
そのギャップが可笑しいのか、千尋さんは「プッ」と笑う。
「くくくく…あはははっ!面白い!実に面白いよ!」
「ちゃんと話を聞いてくださいよ!」
かぼちゃを脱いで俺は真剣に言った。
「元々がオカシイんですよ。だって、こんな格好をして
お店に来るお客さんを驚かして、しかもですよ、なんですか?
『トリック ア トリート』って…お客さんにいたずらして
どーするんですか? と言うか、こんな格好をして良いのは
子供たちで、その子供たちが
ご近所の家に行ってする事だとは思いませんか?」
「うーん、だったら今からご近所へ行こうか?」
千尋さんは、腕を組みながら、思案している。
「いや、だから…」
俺は頭をかかえた。
「そうですよ、みんなで行ってしまったら店番が…」
心配そうにベルダンディーが言う。
それも違うと思うよ、ベルダンディー...。
それから色々あったが、ハロウィンは雰囲気だけを取り入れて
それぞれ過度な演出は控えようと話が決まり、来店して来た
お客さんには、ハロウィンのお菓子を振舞うだけに留めた。
少し不満げな千尋さんだったが、その後多くの来店があり
思わぬ売り上げを上げた事を、たいそう喜んでいた。
ベルダンディーは、妖精の羽をすごく気に入ったらしくて
家に帰るまで着用していた。もちろんティアラもだ。
俺もそっとかぼちゃと白い布を持ち帰った。
それはもちろん、森里家の面々に
『トリック ア トリート』と言いたいが為に(笑)
ハロウィンの日は。
by belldan Goddess Life.
*** *** ***
「うふふ…ハロウィンだわね…」
「うん、おねえさまたちを驚かそう!」
ウルドとスクルドは、魔女と魔法使いの格好をして
ふたりの帰りを虎視眈々と待っていたのだった...。